2018年4月に行われたリチャード・パワーズ『オーバーストーリー』(木原善彦訳、新潮社、2019年)出版直後のイベントの動画がYoutubeにアップされている1。ゲストは当ブログで前回紹介した『ヨーロッパ・セントラル』のウィリアム・T・ヴォルマン。まずヴォ…
いわゆる「ポストモダン文学」に興味がある人なら、ウィリアム・T・ヴォルマン(William T. Vollmann)という名前は聞いたことがあるだろう。90年代以降のアメリカを代表する作家の一人で、ピンチョンのように長大で難解な作品を書く人物……というイメージを…
実は私はかなりのボクシングファンなのだが、それを知っている編集者の友人が面白いことを教えてくれた。ハワイの日系二世作家が書いた作品に、貧困から抜け出すためにボクシングを始めるという描写があるという。さらに、著者の意向で邦訳NGとなっているそ…
ジェスミン・ウォードが2020年のアメリカ人作家の短編から編纂した「アメリカベスト短編集2021」。前回の更新からだいぶ時間が経ってしまったが、ようやく後半の残り10作を紹介。大物作家ソーンダーズや、デビュー長編が邦訳されたばかりのC・パム・ジャンな…
前回1000頁のメガノベルを読んだことだし、初めての試みとして短編のアンソロジーを読んでみた。今回紹介するのは、2020年のアメリカ人作家の短編からセレクトした「アメリカベスト短編集2021」(タイトルの2021は出版された年で、『2022』は11月出版予定)…
編集者である知人Mがこんな話を聞かせてくれたことがある。Mがとある寿司屋に入り、たまたま隣に座ったアメリカ人と話してみると、なんとそのアメリカ人は学生時代にポストモダン文学を専攻、しかもトマス・ピンチョンを研究していた人物だった。Mは自分がリ…
2021年の全米図書賞受賞作。本書の紹介の前に、ここ数年のアメリカの文学賞受賞作で差別を扱った作品について考えてみよう。つまり、オバマ大統領当選によって「人種差別は終わった(ポスト・レイシャル)」と言われた時代以降に「人種差別(レイシャル)」…
2021年のブッカー賞受賞作。デイモン・ガルガット(Damon Galgut)は1963年、南アフリカのプレトリア出身の作家。なんと17歳で作家デビューしており、The Good Doctor(2003年)、In a Strange Room(2010年)で過去2度ブッカー賞候補になっている。作品は全…
2021年のピューリッツァー賞フィクション部門の受賞作。ネイティヴ・アメリカンの血を引く女性作家ルイーズ・アードリックは、1954年ミネソタ州にてドイツ系アメリカン人の父とネイティヴ・アメリカンのチペワ族(あるいはオジブワ族)の母との間に生まれた…
ブッカー賞はイギリスの文学賞で英語圏の小説に与えられる賞だが、国際ブッカー賞とは英語に翻訳された小説を対象とする賞で、つまりはブッカー賞の翻訳部門。日本人では2020年には小川洋子の『密やかな結晶』(原著は1994年)が最終候補に残っており、アジ…
2020年の女性小説賞(オレンジ賞、ベイリーズ賞を経て今はこの名称)と全米批評家協会賞を受賞した『ハムネット(Hamnet)』。作者のMaggie O’Farrell(マギー・オファーレル)は1974年、北アイルランド生まれ。wikipediaでは大学で英文学を学んだ後、ジャー…
*宣伝:東京は西荻窪の今野書店で「編集者竹田純」をテーマにしたフェアが好評開催中ですが、そのリニューアル企画として、「謎めいた読書家カツテイクの本棚」つまり僕のフェアが同時開催されます。期間は4月9日から4月末まで。僕が店頭に出ている日は直接…
2020年の全米図書賞フィクション部門の受賞作。チャールズ・ユウ(游朝凱)は1976年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で分子物理学と細胞生物学、そして創作を学んだ後、コロンビア大学のロー・スクールで法律を学び、法律事務所で働く。2000年代初頭…
わかるだろ? 彼はそう言って、机に身を乗り出した。俺はでっち上げてたんだよ。毎日、君みたいに。作家みたいに。(178頁) リチャード・フラナガンはこれまで3冊が翻訳されているので知っている人も多いだろう。1961年オーストラリアのタスマニア州生まれ。1…
作者のデボラ・レヴィは1959年生まれのイギリスの小説家であり詩人であり劇作家。80年代から詩人・劇作家としての活動をしているようで、彼女の演劇はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで上演されたこともあるそうだ。小説家としてのデビューは1990年。2…
2020年8月23日、ウィスコンシン州ケノーシャで黒人男性が白人警察官に射殺されデモが発生、そして26日にはわずか17歳の白人少年がデモ隊へ向けて発砲、3人が死傷した。人種差別が色濃く残っているアメリカだが、今回紹介するのはまさに人種差別をストレート…
最初に書いておくと、約200頁まで行ったところでですがこれが最終回です。理由は一番最後に…。 ハル・インカンデンツァ その12(121-126頁) (マリオ・インカンデンツァ今のところ最初で最後のロマンス) 時期:大人用下着年(Y.D.A.U.) 10月 人物:マリオ…
これまでのあらすじ エンフィールド・テニス・アカデミー(E.T.A.)の創設者の子供であり生徒でもあるハル・インカンデンツァは、テニスの才能だけでなく辞書を丸暗記するほどの頭脳を持つ天才。なにやらケベック州を中心にアメリカとカナダの国境で陰謀がう…
ところで2020年2月末、待望のデイヴィッド・フォスター・ウォレスの翻訳が河出書房から出版された。DFWのテニスに関するエッセイを集めたもので、タイトルは『フェデラーの一瞬』。訳者は『This is a water(それは水です)』を訳した阿部重夫。 買ったばか…
洋書を扱う書店に行って海外文学の棚を眺めていると、表紙が似顔絵になっている薄い本を見つけることができると思う。それが『The Last Interview』シリーズで、その名の通り、すでに亡くなった作家のインタビューを集めたものだ。このシリーズにはアーネス…
アメリカ現代文学最大の作家の一人にして、早逝の天才デイヴィッド・フォスター・ウォレス。彼が1996年に出版した『インフィニット・ジェスト』は90年代以降のアメリカ文学史において半ば伝説化されている。 この未だに翻訳されていない大長編の概要と、出版…
Infinite Jest とは? 今、私が頑張って少しずつ読んでいるのが1996年に出版されたDavid Foster Wallace(デイヴィッド・フォスター・ウォレス)の『Infinite Jest(インフィニット・ジェスト:直訳すると「無限の戯れ」)』だ。現代アメリカ文学で金字塔的…
『There There』というタイトルは、ガートルード・スタインの『Everybody’s Autobiography』の中の一節に由来する。ガートルード・スタインはこの小説の舞台でもあるカリフォルニア州オークランドで育ったのだが、街として大きく発展したオークランドからは…
「これがぼくの見たものだ。水面を通り過ぎると、陸地がある。緑に覆われ丘が連なり、木々が濃く生い茂り、川が何本も裂くように流れている。川は逆方向に流れ、海で始まり陸で終わる。大気は朝焼けと夕焼けで、永久に黄金桃のような色をたたえる」 「そこに…
2017年の全米批評家協会賞と2018年のペン・フォークナー賞の受賞作。単語は易しめで227頁と、かなり読みやすい部類ではないかと思う。 Joan Silber(ジョーン・シルヴァー? ジョアナ・ジルヴァー?)は1980年にデビュー作を発表、これまでに今作を含めて長…
未翻訳のアメリカ文学を紹介する書肆侃侃房の連載にて、藤井光がエルヴィス・プレスリーを扱う「2018年」の二つの小説について紹介している。 第12回 “America” feat. Elvis Presley, 2018 Remix(藤井光)|書肆侃侃房|note その中で、デニス・ジョンソン…
アメリカにも日本と同じようにいろいろな文学賞があるが、主なものをあげると全米図書賞、全米批評家賞、ピューリッツァー賞の三つだ。これらは、新人もベテランも短編も長編も関係なく、同列に選考される。 そして2018年の全米図書賞のフィクション部門…